Jumble Cinema 『Crash』

今週ご紹介するのは、ポール・ハギス監督の「Crash」。
この収録はアカデミー賞発表前だったので、ノミネートされていることしか紹介していません。ご了承くださいませ・・・。




クラッシュは、ロサンゼルスのハイウェイで起こった一件の自動車事故をきっかけに、さまざまな人種、階層、職業の人間たちの感情が複雑に絡まりあいながら、それぞれの人生に交錯していく様子を繊細に描いたヒューマン・ドラマです。多民族国家アメリカに住んでいる人なら誰にしも思い当たる、人種間や、職業、階層間の隙間に存在する複雑な感情や差別、蔑視。ロスアンジェルスの現実社会をちょっと特出しして描いているこの作品は、『現実はここまでひどくない』『いや、映画は現実そのものだよ』と、観終わった人たちが論議したくなる作品として、アメリカ国内をはじめ、日本でも息の長いロングラン上映をしています。

この作品は監督であるポール・ハギス自身が、ロスのビデオ店から出てきたところで銃を突きつけられ、カージャックされた実体験がヒントになりました。襲撃後、自宅に戻ったポールは、自宅の鍵を全部変え、この事件の背景を犯人側の視点で考え始めたところから、この作品が生まれたわけなのです。

そして、舞台となっているロスアンジェルスという街は、『ロドニー・キング事件』が起こった街です。この事件を覚えていますでしょうか? 1991年に、ロドニー・キングという黒人が白人警官に取り押さえられ、ヒドイ暴行を受けた事件です。この事件の一部始終を、近くに居たヒスパニック系のジョージ・ホリデーがホーム・ビデオに撮っていて、事件が明るみになり、全世界のニュースで知れ渡り、4人の白人警官が起訴されたのですが、陪審員による最終判決は、無罪。法廷では、そのジョージ・ホリデーが取ったビデオ映像が、逆に、ロドニー・キングが4人の警官に危害を加える危険があった証拠として、警官の弁護側から出され採用されたからなんです。

この事件から15年。この映画は、この事件について触れてはいませんが、社会は何も変わっていない、むしろ、どんどん悪くなっていっている事を警告しています。実際、9.11以降、アメリカ国籍を持つアラブ系の人たちの心休まるときは確実になくなっています。白人から見れば、イラク人もトルコ人もみんな同じ「アラブ人」。日本人も中国人も同じ「アジア人」。自分たちが知らない言語、文化、宗教を持つモノに対する恐れから来る排除。自分と違うということが、まず「怖く」て、相手を知ろうという行動に出れないでいる、現代人。これは何も多民族の国に生きてる人に限らない感情だと思います。

この映画に出てくる登場人物たちは、自分たちの日々の生活に不満や不安を抱えて生きているせいで、他人に対する思いやりが極端に欠如され、むしゃくしゃした想いをぶつける相手を無意識に探しています。その相手とは、弱者だったりしますよね。

世界中で終わらない、戦争、紛争、虐殺も、その根っこの部分にあるのは、人が無意識に思う「違う」ことへの恐れですよね。「他人に対する思いやり」という言葉だけでは弱いとは思うけど、地球に住む人、一人一人が今よりも強く心がけていったら、今とは違う世界が広がるかもしれません。ちっちゃいことだけど、行動を起こすことは、ある意味とても勇気のいることです。自分が出来る範囲で、心に持っていきたいですね。

Crashをご覧になって、感じたこと、思ったことなど、いろいろな人と話をすることも第1歩だと思います。ぜひ、感想をお寄せください。

この作品は、ただ今、日比谷のシャンテシネで公開中です。
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by kanyukumari | 2006-03-17 10:19 | J-Cinema 06
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