企業の社会的責任を問うドキュメンタリー映画「The Corporation」J.シネマ編
GGJCの映画コーナー「Jumble Cinema」用に、改めて書き直したレビュー原稿です。
ここ1ヶ月・・・公開前だと言うのにジワリジワリ・・と、この映画の評判が聴こえ初めてきています。2005年の終わりに相応しい、今だからこそ、見ておくべき作品。見たら最後、何かを感じずにはいられなくなりますよ。 今回のレビューも読んでね♪ ↓ 今週は、来月、12月10日から公開になる映画をご紹介いたします。その名も「The Corporation」。「企業」と言う名のドキュメンタリー映画です。私たちの社会は、この「企業」に支配されている、という観点のもと、その誕生から、グローバルに巨大化していく多国籍企業の実態について問題定義している、カナダ制作の長編ドキュメンタリーです。 政治家や、地域のリーダーなどは一応私たち国民や一般の人たちの支持によって選ばれていますが、「企業」のトップって私たちの知らないところで選ばれ方針が進められていきますよね。(まぁ、厳密に言えば、ステーク・ホルダーの利益増長のために・・・、なんですけど) でも世界中でグローバルに展開している、いわゆる多国籍企業の方針って、時には国の政治力をも動かし、私たちの生活にも影響を及ぼしていたりします。そのコントロールできない機関の実態について、この映画では疑問を投げかけているんです。この映画は、誰もが名前を知っている巨大多国籍企業の社会的責任を真っ向から追及しているドキュメンタリー映画なんです。 従来、企業は、商品の提供、雇用の創出、税金の納付、といった基本的な責任を果たすことで、それぞれの国が定めた法律に守られています。法により企業は人と同じように資産・株の運用・所得が可能になります。そう、法的には企業は人間と定義されているのです。では、「企業とはどういう人間なんだろうか?」ブリティッシュ・コロンビア大学の法学教授であり、弁護士でもある、ジョエル・ベイカンは、企業を「精神分析する」というアイデアを発案します。 その結果、出てきた企業の診断は、 ・他人への思いやりがない ・人間関係を維持できない ・他人への配慮に無関心 ・利益のために嘘を続ける ・罪の意識がない ・社会規範や法に従えない ・・・と、判断され、人間で言えば、サイコパス、精神病質者と、見なされたのです。 映画では、サイコパスと診断された経緯を、7つのエピソードの紹介と、総勢40名の証言者のインタビューでまとめています。例えば、世界第2位の石油会社「ロイヤル・ダッチ・シェル」社の公害問題、GAPやNIKEなどのファッションブランド社の製品工場での不当労働問題、牛の遺伝子組み換え成長ホルモン剤の危険性を指摘したため解雇されてしまったFOXテレビの社員たち・・・・、などのエピソードを、関係者や本人の証言インタビューを交えて、私たちに突きつけていきます。その証言者たちとは、マサチューセッツ工科大学教授のノーム・チョムスキー、反グローバリズム運動マニフェストのナオミ・クライン、世界第2位の石油会社ロイヤル・ダッチ・シェル前CEOのマーク・ムーディ=スチュワート卿、ファイザー製薬会社副社長のトム・クライン、そして先日お亡くなりになった経営学の神様ピーター・ドラッカーをはじめ、世界を揺るがす企業のエキスパートたち。そして、その中の1人には、あの、マイケル・ムーアもいます。彼は自ら、あるファッションブランドの社長を訪問し、2枚の飛行機チケットを見せ、今から2人でその会社が持っているフィリピン工場を見に行こう。工場が今どういう状況なのか社長は見る必要がある、と提案をします。ところが、社長の答えは意外にも、「自分はその工場に一度も行った事がないし、行く予定にもなっていない。でも、君がそういうなら、今度イギリスの帰りにちょっと寄ってみるよ」という、安易なものでした。実際、その工場では、10代前半の若い子ども達が、微々たる給料の元、何時間も働かされているのです。 このような様々な症例が次々と明るみになっていくのですが、現在の企業の方針は、利益追従のためなら、たとえ環境や自然を破壊したり、法を違反しても構わない。いや、金で解決できることなら、違反しても罰金を払ったほうが安く済む、という考えの下、突き進んでいるのです。 どうしてこうなってしまったのでしょうか? そして私たちはどう考えればいいのでしょうか? 結構、難しく感じちゃいますかね? この映画、企業人のインタビューだけで145分というのは、シンドイのではないかと思ったんだけど、これがまた引きずり込まれて見てしまう、上手い編集。本当にあっという間でした。これが、世界の映画祭で数々の観客賞を受賞する理由なんだなぁ、と思いました。 世界の貧困や、地球環境や、様々な問題が駆け巡る、このご時世。個人の間でも、「自分さえ良ければいい」、という考え方が抑えられてきているのに、世界を支配している企業が、人格障害のままでいいわけないよね。がっかりしちゃうけど、でも今までの私たちの「無関心」さも影響しているんじゃないでしょうか?やっぱり、この問題を変えられるのも、私たち一人一人の意識、なんだと思う。地道だけど、一人一人の意識が高まることを願っていきましょう。 『The CORPORATION』 2004年 カナダ 監督:マーク・アクバー、ジェニファー・アボット 原作:ジョエル・ベイカン「ザ・コーポレーション」(早川書房) 配給:UPLINK そして、この映画「The Corporation」は、12月10日から渋谷UPLINK-Xにて公開!
by kanyukumari
| 2005-11-30 17:08
| J-Cinema 05
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